6月28日
ダ-ツの嫁
突然黒い服の男達が入ってきた。
「金子若子さん、いますか」
明らかに軍人と分かる男達だが、意外と丁寧な口調だった。
「はい、私ですけど」
「では、さっそく、お城に来てください」
と、男達は私をすぐに連れていこうとした。
「ちょ、ちょっと待ってください。理由を教えてください」
「そ、そうですね。では、説明しましょう」
立ったまま、1人の男が説明を始めた。
「ダ-ツの嫁って知ってますよね」
「いえ、知りませんけど」
「え、知らないんですか。あんなに有名なのに。世間ですごく評判ですよ」
「知らないものは知らないのよ」
「ダ-ツは分かりますよね。」
「ええ、まあ」
「あれを、この国の地図を的にして、王様がやるわけです。そして命中した家の女の人が一晩、王様のお嫁さんになるってわけですよ。」
「まあ、何それ、やだわ」
「そしてついさっき、王様のダ-ツが見事この家に命中しまして、この家の女性として、あなたが今夜、王様のお嫁さんというか、早く言えば愛人というか、ダッチワイフというか、抱かれ女というか、セックスの相手というか、に、なるわけです」
「王様って、あの、はげでぶちびの、トプラン王のこと」
「当然です」
「ええ、あんな奴に抱かれるの、この私が、いやよ、絶対だめ、あり得ないわ」
「そんなこと言わずお願いしますよ」
「無理、むり、ムリ、ああ、想像しただけでぞっとするわ」
「あの、これ、拒否権はないんです。王様の命令ですから、絶対なんです」
「そんな変なこと、昔はなかったわよね」
「ええ、オバナ王の頃はこんなことやってませんでした」
「あのばかでおろかで最低のトプランが始めたのね」
「はい、その通りです」
「だって、ちゃんと奥様がいるんじゃないの」
「逃げられましたのです」
「まあ、そうよね。誰だって逃げるわよ、あんな奴」
「あの、とにかく、お城に行きましょう。おいしい豪華な食事も食べられますし」
「拒否したら、どうなるの」
「もちろん、処刑されます」
「死ぬってことね」
「ただ死ぬだけじゃありません。最近、王様は沈黙という映画をごらんになって、是非、ああいう残酷なのを実際にやってみたいとおっしゃってまして」
「え、じゃまさか、火あぶりの刑とか、逆さ吊りとか」
「まあ、そんなものでしょうね」
「そんなこと、この国で許されるの」
「なにしろ、わがままな王様ですから」
「全く、ばかが権力持つと・・・」
「あの、もうそろそろ時間ですので、どっちみち、無理にでも連れていきますけど」
「分かったわ。まだ死にたくないし。けど、せめてお化粧させて」
「おやおや、嫌な男に抱かれるのに、化粧だけはするとは、不思議な女心ですな」
「だって、マスコミとか、ホ-ムペ-ジにアップとか、いろいろあるわけでしょ」
「いや、何もそんなことはありません」
「とにかく、もう少しだけ待ってちょうだい」
と言って、金子若子のお化粧は、1時間半かかった。
「では、リムジンにお乗りください」
超豪華な外装のリムジンに乗ると、車内も豪華だった。
あっという間にお城に着くと、赤い絨毯の上を歩いて、お城の中へと進んだ。
「さあ、まずはゆっくり、食事を楽しんでくれたまえ」
大きなテ-ブルの向こうの端にトプラン王が座っていて、もう、食事を始めていた。
周囲にたくさんの食い散らかしがあって、食べっぷりもいやらしく、まさに最低の食事相手だった。
しかしテ-ブルの長さが30mもあれば、ほとんど気にならないが。
落ち着いて、食事を始めると、金子若子はふと、思ったのだった。
今夜、セックスするってことは、ものすごく接近するってことよね、つまり、殺すチャンスってことじゃないかしら。
何か刺すものがあれば、あいつののど元にブスって刺して、簡単に殺せるんじゃないのかしら。
これって、滅多にないチャンスよ。あんな奴、絶対死んだ方がいいのよ。
歴史から抹消した方がいいのよ。
この国にとっても、世界全体にとっても。
だって、あいつが王様になってから、ろくなことしてないわ。
むしろ何もしない方がよっぽどいいんだけど、いろいろろくでもないことばかりするから、
国中が混乱してひどくなるばかりだし、世界中で戦争しかけてるから、安定しないし、
悲惨で悲劇だらけの世の中になってしまってるし。
そうよ、今夜こそ、歴史を正常化する絶好のチャンスなんだわ。
あいつがいなくなれば、2人の子供達の未来も明るくなるわ。
と、ナイフとかフォ-クとか、何か刺す道具を探しはじめた。
テ-ブルのあちこちに、いっぱいあった。
食べるふりょしながら、適当な大きさのを2つ、手にしっかりと持った。
「ああ、おいしかったわ。さあ、トプラン王様、私を抱いてください。早く、抱かれたいわ」
「おお、そうか、そうか、じゃ・・・」
と、すぐにベッドル-ムに行くのかと思ったら、
大きなバスル-ムに案内された。
ゆっくり入浴し、その後に一流のマッサ-ジ師によるオイルマッサ-ジがあった。
金子若子は早く刺したくてイライラしていたが、超キモチイイ状態でもあった。
「あいつが私にアレを挿入してくる、その寸前、きっとキスしようとして顔をものすごく近づけてくる」
その瞬間、手にそっと持っていたナイフを、いや、フォ-クをのどにブスっと、ザクっと、チクっと、刺すのだ。
あいつの血がほとばしり、きっと下になってる私の顔も血だらけになるだろう。
そして私はすぐに捕まり、死刑になるだろう。でも、かまわない。夫や2人の子供達には申し訳ないが、
世界のため、歴史のため、私は正義を行うのだ。
そのために、心を無にして、石になって、抱かれるのだ。
それにしても、このマッサ-ジ、すごく気持いい。何だか、性感が高まってくる感じる。
それもやっと終わり、いよいよ大きなベッドル-ムへ。
さあ、刺すぞ、と、思っていると、いきなり、超イケメンの裸の男達が現れて、みんないい体でしかもびんびんで、
さあ、まずはボクタチと愛し合いましょう、と、御輿のようにかつがれて、ベッドにそっとおろされ、5人だったろうか、
全員からキスされたり、体中愛撫されたり、もしかしたら挿入されたりしている内に、どんどん天国にのぼっていき、
ナイフやフォ-クのことはどこかに飛んでいき、トプランがいつ現れていつ挿入したのかも分からないまま、
めくるめくような、今まで経験したことのないような、ものすごいー夜を過ごし、もう、朝になっていた。
さあ、朝食をどうぞ、と、豪華な朝食を食べ、
では、お宅に戻りましょう、とリムジンに乗り、
それでもしっかり、もし、妊娠したらどうなるんでしょう、男の子だったら王子様になるとか、
などとリムジンの中で聞き、
あなた、56才ですよね、妊娠はないでしょう、と、軽くばかにされ、
下りる時、お礼ですよ、と、大金を渡されると、
ついにこにこして、ドアを開けて中に入る金子若子。
「それにしても、天国のような夜、ああ、これからはもう、夫じゃ満足できないわねぇ」
と、ふと、ため息をつくのであった。
などと