6月28日
宣言
ポ国の王、イチョンチョンは悩んでいた。
彼は、ミサイル狂い、核兵器大好きで、全世界に知られていた。
そういうイメ-ジを自ら演出してつくってきたのだ。
でも、時々はそれに疲れを感じることもある。
ぼくだって、普通の国の王様のように、本当はまともなのだ。
真剣に国のことを考え、民のことを考え、どうしたらよいか、日々、夜も寝ずに考えているのだ。
国家予算の99%を軍事費にあてるなど、狂気だ。
そんなことは十分承知している。
だが、まずは、この国は、全世界からその存在を認めてもらわなければならないのだ。
普通にしていたら、え、そんな国あったっけ、などということに簡単になってしまう。
ミサイル、そして、核兵器、これしかないのだ。
この国の民が貧困にあえいでいるのはよく分かっている。 しかしそもそも生活水準の規準とは何なのだ。 あの国のレベルが標準だというのか。 だとしたら、世界中があの国のレベルで生活するとしたら、地球はたった10年で枯渇し、ほろびてしまうだろう。 どこまでを目安とすればいいのか。 簡単に貧困というが、もしかしたらそれほどでもないのかもしれない。 などといういいぐさは、全く通用しないこともよく分かっている。 とにかく今はミサイル、核兵器だ。 特に核兵器を持てば、その存在感ははかりしれないものになる。
こんな小さな国が、あの大きな国と、ほぼ同じ存在になるのだ。
世界中が、ぼくの発言に注目せざるをえなくなる。
まずはそれが第一歩なのだ。
そうなってから、普通の国の発展をしていけばいい。
どんなに世界からバカにされようと悪く言われようと、
ひたすら今の道を進むのだ。
そして、全世界に向けて、核兵器を持ったぞ、と、堂々と宣言できる
日がくるのも、すぐとは言わないが、そう遠くもない。
と、そんなことを考えていた時、秘書のビンビンが入ってきた。
「原稿ができました」
これから、全世界に向けて発表する原稿である。
「おお、今回はぼく地震が読むんだったな」
「そうです、今回は、王自身が、読み上げるのです」
「ふむふむ、拝啓、皆様、ご機嫌よろしゅう、なんじゃこの原稿は」
「はい、いつも書いてるポンチョが風邪で寝込んでしまい、代理の者に書かせましたので」
「そうか、で、とりあえず、今回、ミサイルを5発発射いたしましたでそうろう」
「5発だったっけ、4発じゃなかったっけ」
「じゃ、直させますか」
「いや、まあ、いいだろう。で、5発とも大成功。1つはカスビ海に、1つは大西洋に、1つはインド洋に、1つはエ-ゲ海に、もう1つはウユニ塩湖に落ちたのであのまする」
「これはいくらなんでも、うそがバレバレじゃないかな」
「じゃ、直させますか」
「まあ、いい。で、どうだ、ざまあみろ、ワッハッハッハッ」
「いかがでしょう」
「まあ、いいだろう。で、ところで、それはおいといて、え、おいとくのかい」
「ええ、そのようで」
「で、実は来週、核兵器が完成します。わ-い」
「来週は無理でしょうに。まあ、いいか。で、その核兵器、ものすごいんだぞう。どのくらいすごいかというと」
「読んでて時分でも気になるな。どれどれ、猿の惑星に出てきた、地底人の持っていたみたいなやつだ」
「敵国の映画はまずくないかな。だいたい、その映画見てない者にはピンとこないぞ」
「それはですね、最初のシリ-ズにですね、人類の生き残りとして地底人が出てきまして、最終兵器として出てくるものでして」
「まあ、いい、続けよう。分かったか、だから、これから言う3つのことをよく聞くのだ」
「考えに考えぬいた3つだそうです」
「1つ、我が国に対する、いかなる規制も制限も撤廃するのだ。さもないと、最終兵器、使っちゃうぞ」
「これ、あまりにも直接的すぎて、説得力ないような気がするな」
「猿の惑星が出てきてる段階で、もう、説得力とかなんとかは、なくなってるというか」
「まあ、いい。で、2つ目は、我が国の特産品、核兵器チョコを食べること」
「何これ、核兵器チョコって」
「これです。食べてみてください」
「苦いよこれ。こんなの、絶対売れないよ」
「王様がこれを宣言の中で食べて、今のような苦いって顔をすれば、全世界で話題になり、話題になれば売れるというか」
「何それ」
「王様、お願いです、食べてください。我が国の貴重な外貨獲得につながります」
「分った、食べるよ。で、3つ目は、隣の国との国境に万里の長城のような巨大な壁をつくる、その費用は隣の国が払うのだ」
「これって、誰かのパクリじゃないの。どうせあの国が払うわけないし」
「まだ続きがありますよ」
「なになに、我が国の核兵器開発が急に進んだのは、世界中の核兵器に関する科学者、技術者を拉致しまくったからだ」
「これってまずくないかな」
「まだ続きがあります」
「で、我が国の拉致技術は世界一である。うらやましいだろう」
「犯罪国家ってことじゃないか」
「まあまあ、まだ続きがあります」
「ところで、最後に1番すごいことをここに宣言する。核のボタンを、ぼくの妻に持たせることにする」
「何、これがそんなにすごいことなの」
「だって、王様の奥様ときたら、ものすごいやきもちやきのヒステリ-の超短気のキレちゃう系じゃないですか」
「まあ、な」
「世界中にそのうわさは知れわたっておりますから、その奥様が核のボタンを持つということは、いつ押してしまうか分からない、本当にもう、おちおち寝ていることもできない、今世紀最大の恐怖というか、ホラ-というか」
「分かった分かった。じゃ、この宣言、このまま、読むとするよ」
「王様、これが核のボタンです」
「え、もうできてるの」
「試しに、宣言の最後に押してみてください」
「え、いくらなんでもそれはさすがにやりすぎじゃないの」
「いいんです。それぐらい世界を驚かさないと」
「でも、押したって何も起きないでしょ」
「いや、何かが起きます。何が起きるかは、お楽しみで」
「え、いやな笑い方だな。」
「フヒヒ、フハハ、ニシシ」
「ま、とにかく、がんばって読むよ」
放送室に入るポ国のイチョンチョン王。
その宣言は、世界中でとにもかくにも話題になった。
何でかというと・・・・。